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2020.10.24VISION1学びのかたちの新展開

同志社大学新島塾「リーダーに学ぶ徳力の涵養」Talk Live 2020

10月24日(土)に「リーダーに学ぶ徳力の涵養」Talk Live 2020が行われました。本学の卒業生である能楽師・河村晴久先生(観世流シテ方)を講師に、京都市上京区の河村能舞台を会場に開催いたしました。進行役の植木学長(新島塾塾長)をはじめ多くの教職員も聴講する中、河村先生は、「能に学ぶ日本の精神性」の演題で、ご自身が大切にされていることを、これまでの経験を交えて講演いただきました。

冒頭では「屋島」の一部を演じて紹介いただくなど、大変貴重な場となりました。講演は「『能はいつの時代にも人々に感動を与え続けたからこそ現在存在する。伝統芸能というと、古い物がそのままあるように思われるけれども、むしろ600年間、その時代の感性に合わせて変わり続けてきた結果、現在の姿がある。」という能の歴史から始まりました。実際に何名かの塾生が、能の時代を超えた普遍性について事前課題レポートに書いていました。能に対して持たれる一般的なイメージとは反対のお話しに、多くの塾生は驚いたような表情を浮かべていました。

宗教の場で芸能は発生します。能は、もともとは祝福を第一とした庶民の娯楽でありましたが、大和で活躍した観阿弥、世阿弥親子の人気が高まり京の都に進出、足利義満の寵愛を受けるに至り、義満の北山文化の好みを取り入れ、文芸路線に舵を切ります。やがて「祝福」と「鎮魂」を柱としたものへと大きく変化しました。「能に限らず、芸能は、魅力を失ったら死んでしまう。時代に合わせ、見ている人の感性に合わせ変化をしながらも、世阿弥が目指した世界観を大切にし、積み重ねられた継続性により、人々を魅了するだけのものを持っている」というお話しが次々とされました。塾生たちは600年の間に変わり続けた姿と、変わらずあり続けた姿の両方を持つ能の深さに圧倒されたかのように深く聞き入っていました。

また海外との文化交流の活動についてもお話しいただきました。文化交流は「ユニーク」な日本文化を紹介するだけの文化「一方通行」であってはいけない。どの国の文化もすべてユニークなもので、相手の感性でどう見えるのか、お互いをよく知り刺激し合うことが必要だ。まずは自分のアイデンティを確立して相手に接することで、相手との違いが解り、おたがいを認め尊敬し合うことができれば世界の平和につながってゆく、というお話しでした。「異なる考えや多様な価値観を認めあうこと」は新島塾が重要視するもので、いつの時代であっても欠くことのできない普遍的な素養であるとあらためて気付きました。

二年前にウクライナのキエフで、源義経を主役にして戦いの虚しさを説く「屋島」を紹介された時のお話は、言葉では表せないような複雑な感情が去来しました。ウクライナでは紛争が身近にあり、「今日も東部で若い命が失われ、こんなつらいことはないけれど、命を懸けて守ってくれる人がいるから、いま私達はキエフで暮らすことができる」と仰る現地の方の言葉を聞くと、平和な日本で暮らす私から、単に「戦争はダメだ」という言葉はとても言えなかった。その時は、戦に執着する魂が再びこの世に現れ、思いの丈を語り、僧の弔いによって救われて帰るという鎮魂の演劇を日本では600年前から演じている、という説明をしたが、自分自身に「能とは何なのか」を今一度考えさせられる場面だった、というお話しでした。鎮魂や弔いという能が持つテーマが思い起こされるだけでなく、そこには能が600年の歴史と共に持つ高い精神性の凝縮が感じられました。

また、講演では実際に付けておられる面や装束の実物もいくつも見せていただきました。安土桃山時代に作られた能面などは、博物館に収蔵されていてもおかしくありません。それが現存することだけでも驚くべきことで、それを実際に目の前で見たり触れたりする経験は、オンラインではできないものです。「信仰対象の仏像や絵画も含め、あらゆる芸術作品は、作者の精神性が込められて作り出される。例えば3Dプリンタなどの現在の技術をもってすれば、安土桃山時代のものと見た目の上では寸分違わぬ面も簡単に製作できる。しかし、型だけをなぞるようになると作品の魅力は落ちてしまう。作者の精神力と能が積み重ねた歴史が合わさることで魅力を生み、迫力を持つ。」というお話しに、塾生は「本物だけが持つ、内に秘められた力」を体感することができました。

最後に塾生に向けて「今日は世阿弥の思想に少し触れた。皆さんは何でもよいので、直接触れて感じて進んでください。」というメッセージを頂戴しました。コロナウイルスの影響を受け、多くの授業や行事がオンラインで代替される現状に何とも言えない不安や迷いを抱えている塾生が多い中、「感性を磨き感じることが大切」というお言葉とともに、強く重く響いたことでしょう。

能の曲目は、神の祝福や鎮魂、美的世界の追求、悲しみの中や危機に瀕した人の心や鬼退治など実に様々です。どれも神と人の世界の話で、「人間とは何か?」というのが永遠の普遍的テーマであり、どれだけ年月を重ねても古くならないということが、能の持つ精神性をよく表しているのではないでしょうか。

Talk Liveの終了後も、舞台裏の楽屋や客席などのバックツアーを実施いただきました。楽屋はその言葉からイメージされるような、出演前にひと休みする場ではなく、舞台と繋がっている場であり、出演を控え精神の集中と準備を行う場であることを実際に目で見て、生の空気を感じ取ることができました。

河村先生をはじめ河村能舞台の皆様、誠にありがとうございました。

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