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文化の発展と人間形成に寄与し未来をひらく企業を率いる卒業生

村田 むらた 恒夫 つねお さん

株式会社村田製作所 代表取締役会長。1951年、京都府生まれ。同志社大学経済学部卒業。創業者の父・村田昭(あきら)氏、実兄・村田泰隆(やすたか)氏の後を継ぎ、創業時から続く企業文化のもと、産業振興等、持続可能な社会の実現へ貢献。

植木 本日はお忙しい中、誠にありがとうございます。村田恒夫さんは1974年に本学経済学部を卒業され、株式会社村田製作所に入社されました。2020年より現職の代表取締役会長を務めておられます。また産業振興の功績により、2019年秋に藍綬褒章を受章されました。「独自の製品を供給して文化の発展に貢献する」という創業以来の企業文化を大切にされ、現在も持続可能な社会の実現に貢献されています。廣江敏朗さんは1983年に本学工学部を卒業され、大日本スクリーン製造株式会社、現在の株式会社SCREENホールディングス(以下、SCREEN)に入社されました。2019年より現職の代表取締役社長、最高経営責任者(CEO)を務めておられます。SCREENはウクライナなどへの人道支援として国連難民高等弁務官事務所へ20万ユーロの寄付をされ、2022年の褒章で紺綬褒章を受章されています。まずはお二人がトップとして率いておられる企業が、現在最も力を入れている事業や活動についてお聞かせください。

村田 弊社では「Vision2030」という長期ビジョンを策定しています。企業としての方向性が3つのステップに示されたもので、現在は「中期方針2024」が進行中です。私は現在、執行側にはいませんが、多様性の活用によるイノベーションの促進、経済価値と社会価値の好循環の実現などに力を貸せるかなと考えています。

廣江 弊社は産業用機器の製造事業がメインです。現在最も注力しているのは半導体製造装置で、他にプリント基板やディスプレー関係なども展開しています。祖業は印刷業ですので、印刷から始まった技術を展開しながら多様な産業に装置を提供しています。現在、半導体関係は投資が活発になっており、我々装置メーカーは非常に忙しい状況です。その中で次代に向けた新規事業の立ち上げも視野に入れながら、きちっとした開発投資、設備投資を行っていくことが現在の最重要課題です。

植木 お二人の会社とも、時代に即した新しい事業展開をしておられるということですね。一方で、変わらないものもあると思います。企業経営にあたって大切にしておられる経営理念、あるいは個人的な座右の銘などを教えていただけますか。

村田 弊社の社是に「技術を練磨し 科学的管理を実践し 独自の製品を供給して 文化の発展に貢献し」という文言があります。これができたのは1954年。随分昔ですが、企業の社会的存在意義は文化の発展への貢献であると当時から提唱し、私もこの考えに基づいた行動をしています。

廣江 弊社は今年、ちょうど創立80年を迎えます。創業から数えると155年になります。その間、創業の精神として「思考展開」という言葉を大切にしてきました。考えを尽くし、いろいろな情報を入れ、自分の中で昇華して新たなビジネス場面に展開する。我々の製造装置技術で社会課題を解決していくのだという思いが込められた言葉です。そして創立80年を機に、「未来共有」「人間形成」「技術追究」という3つの企業理念を包含するものとして、「人と技術をつなぎ、未来をひらく」という存在意義を設定しました。これによって創業の精神である「思考展開」と3つの理念が、うまく噛み合ったのではないかと思います。こうして会社の存在意義を示し、それに向けて進んでいきたいと考えています。

大学と企業が刺激を与え合う京都の産学連携の現状

廣江 ひろえ 敏朗 としお さん

株式会社SCREENホールディングス 代表取締役 取締役社長、最高経営責任者(CEO)。1959年、奈良県生まれ。同志社大学工学部機械工学科卒業。「人と技術をつなぎ、未来をひらく」という存在意義のもと、社会課題の解決に取り組む。

植木 文化の発展あるいは人間形成への寄与は、のちの世につながっていく社会貢献ですね。そのようなお二人の会社をはじめとして、本学では近年、産学連携の動きが加速しています。村田製作所は設立40周年を機に「公益財団法人村田学術振興財団」を設立されました。エレクトロニクスを中心とした科学技術の向上発展と、国際化に伴う人文・社会科学的諸問題の解決に寄与するため、学術研究や学術的国際交流への助成などの諸事業を目的としておられます。本学の前学長、松岡敬理工学部教授が理事を務め、私も評議員を仰せつかっています。本学教員が研究助成に応募して採択された例もあります。また本学は2022年6月に「カーボンリサイクル技術フォーラム」を立ち上げました。良心教育を基盤に脱炭素社会を実現する人材育成と、ネガティブエミッション技術の社会実装を目指す研究開発の促進が目的です。村田製作所は本フォーラムにも参画してくださって、総合知をもって実践的な取り組みを進めるために多大なお力添えをいただいています。SCREENからは、本学ビジネス研究科の寄付教育研究プロジェクト「産学連携によるMBA教育機能強化プロジェクト」に多大なご協力をいただいています。3月に本プロジェクトの報告セミナーがあり、SCREENからお越しくださった沖勝登志教授からは、同研究科の2022年度新規科目「ジョブ型インターンシップ」の紹介がありました。ジョブ・ディスクリプションを通して学生たちの就業内容が可視化され、適切な指導がなされていることがよく分かりました。このように研究・教育両面で本学にお力添えをいただいていることに、厚く御礼申し上げます。改めて今後の産学連携の可能性や、より良いあり方についてお考えをお聞きかせください。

村田 京都には多くの大学が集まっており、世界的企業もあります。そのような企業と大学の連携については「京都クオリアフォーラム」がありますね。両者が一緒にさまざまな課題を解決するもので、1対1の大学・企業間の活動を、より広範囲で行うための取り組みです。これらの活動が定着して成果を上げていければと期待しています。

植木 京都に根差す大学と企業が、互いの垣根を越えた交流を通して「知の共鳴場」を実現したのが京都クオリアフォーラムですね。そこから新たなイノベーションを創出し、社会実装を通して日本の科学技術産業界に貢献して、世界をリードする人材を輩出することが目的です。現在、本学を含めて7大学と、村田製作所、SCREENを含めて8企業が参画して、「共同研究・事業開発」「人材育成」という2つの活動を行っています。企業と大学が互いに刺激を受け合う場ともなっていますね。

廣江 クオリアフォーラムでは行政が問題視する課題を取り上げていただき、我々も認識を新たにしながらディスカッションをしていると聞いています。人材育成におきましては、時代と共に変化する企業のニーズを、大学関係者の方々にお話しする機会も多くいただいています。一方でこれらのコミュニケーションを通じて、企業側が改めるべき点も見つかるでしょう。オープンなディスカッションの場をご提供いただいているのは、我々としては非常にありがたいことです。

大学と企業の壁を超える新たな演習科目を設置

植木 企業として大学には何を望まれますか。

村田 今までは、例えば大学教授と個別の共同研究などは行なっても、大学全体の事業や方向性などはよく分かりませんでした。その点、クオリアフォーラムでの交流を通じて、初めて理解できる事もありました。同志社大学では現在、「同志社大学ビジョン2025」に取り組んでおられますね。私の学生時代には思いもしなかったような教育活動の数々を知りました。個人的には先ほど紹介されたカーボンリサイクル、あるいはDX、AI教育プログラムなどに興味をもちました。大学も、これらの取り組みをもっと発信されてもいいのではないでしょうか。

植木 AIやデータサイエンスについては、理工系学部はもちろん、現代では学生なら皆が基本的に身につける必要があります。そこで今年から「同志社データサイエンス・AI教育プログラム」、通称「DDASH(Doshisha Approved Program for Data science and AI Smart Higher Education)」を、全学共通教養教育科目として設置しました。最初はリテラシーレベルですが、徐々に深く学んでいけるよう、段階を追ったプログラムも作成中です。そういう事も積極的に発信していきたいと思います。

村田 文理融合型教育にも興味をもちました。高校や中学では、文部科学省の推進するSTEM教育のような学際教育が始まっています。大学でもそういう取り組みが行われ、社会課題に対していろいろな知恵を集めて研究し、結果を出していこうという動きがあることに、かなり驚きました。

植木 このような不透明な時代になると、一つの分野だけで多様な問題を解決するのは難しくなりました。といっても、個人が多様な知識を身につけるだけではなかなか間に合わない。やはり協働が重要です。例えばダイキン工業株式会社と本学は、カーボンリサイクルに取り組む「『次の環境』研究センター」を立ち上げています。研究はもちろん、人材育成においても協働しています。ダイキンの若手社員の方と本学の大学院生によるワークショップ形式の「フューチャーデザイン演習」では、大学と企業の壁を越え、これからの社会に必要な技術などを、少し先の未来から両者が振り返って考えるという取り組みをしています。大学院生は文理を問わず、さまざまな分野から集まっています。若い社員さんたちは学生の突拍子もない発想に刺激を受け、学生は、自分たちの夢みたいなアイデアを社会に実装していくために必要な事を、ちょっと先輩である社員さんたちから学びます。学生にとって社員の方たちは、自分の少し将来のロールモデルになるわけです。文理融合の場であり、社会人と学生の共修環境でもあるという多様性の中からイノベーションが生まれ、社会実装され、さらに研究が深まることを期待しています。これもしっかり発信したいと思います。

廣江 我々はアメリカの大学にも社員を派遣しています。その様子を見ていると、アメリカでは企業と大学とのコラボレーションが非常に盛んですね。距離が近い。企業と教授との間でテーマ立てから盛んにディスカッションを行い、進捗も企業がコーチングするような形です。日本の大学は、そのあたりがちょっと遅れているのではという感覚をもっていましたが、学長のお話を聞いて、一気に垣根を飛び越えられた感じです。非常に心強いです。

就職活動は企業研究だけでなく自身との相性研究も必要

植木 ありがとうございます。今はリカレント教育やリスキリングが話題ですが、大学側が用意したメニューが企業側のニーズと合わない場合もあるかもしれません。双方のコミュニケーションの重要性を改めて感じました。さて、コロナ禍では学生たちが就職活動に非常に苦労しました。お二人から就職活動に励む学生たちに、アドバイスをお願いいたします。

村田 私は父の会社に入りましたが、大学4年の夏休みに工場で約1カ月、研修を行いました。今でいうインターンシップのようなものです。学生の皆さんはそういう企業訪問やインターンシップを通じて、企業風土や自身との相性などを感じていただくことが非常に重要かと思います。

廣江 私は学生時代、自分が専攻してきた制御の技術が活かせて、なおかつ当時興味のあった半導体を扱っている会社に絞りました。そこで当時の教授から紹介されたのが今の会社です。会社との出合いは、いわば結婚相手を探すようなものかもしれません。皆さんもいろいろな企業を訪問しながら、自分との相性や、自分の興味が本当にその会社で見出せるのかということを十分研究されると良いでしょう。自分で研究した上で導き出した志望理由があるからこそ、頑張ろうという気持ちにもなれるのだと思います。

心理に近づく学び方を体得した学生時代それが社会人の基礎になる

同志社大学  植木 うえき 朝子 ともこ 学長

植木 学生時代のお話をお聞かせください。

村田 私は同志社中・高で学び、同志社のファミリー的な雰囲気の中で育ちました。だから大学では新しいものを見つけたいと思い、まったく違う雰囲気のサークルに入りました。その活動を通じて広い範囲の人たちと出会えたので、その後の人生においても、同質化していない異質なものに対してもあまり抵抗なく受け入れられるようになったかなと思います。

植木 確かに法人内高校から来る学生さんたちは建学の精神などをよく理解していて、外部から来た学生さんたちに伝えてくれています。その中で両者の間に出会いがあり、多様な背景の人たちと共に大学ができていく。伝統もじわじわと伝わっていく。とても良いバランスを感じます。ちなみにサークル活動は何をなさっていたのですか。

村田 中・高校ではラグビーをしていましたが、体育会系に染まり切るのは避けたくて、大学では絵画サークルで油絵を描いていました。

植木 芸術への理解や関心を企業のトップの方が持ってくださるのは、とても大事なことと思います。心強く感じました。廣江さんはどのようにお過ごしでしたか。

廣江 私は大学から同志社に入りましたので、まったく知り合いのいない状況からのスタートでした。当初は授業で顔を合わせた人たちとおしゃべりや麻雀などをしながら、コミュニケーションを取っていた気がします。上の学年になってからは、当時流行っていたゲームに関心を持ち、仲間うちでゲームを作って講評し合うなどして、いろいろな研究室の間を行ったり来たりしていました。一方で実験にも没頭し、かなり真面目に勉強していました。

植木 それぞれが興味をもった事に夢中になれるのも、自由な同志社の長所だと感じます。学生時代のご経験が今に生きていると感じることはおありですか。

廣江 たくさんあると思います。コミュニケーションの取り方、新しい事を学ぶ中で感じるストレスの解放方法。実験やゼミを通じては、真理に近づくための方法を考える態度が身につきました。自由な校風の中で自分のやりたい事を通じて、基礎となるいろいろな勉強ができたと感じています。

村田 私は経済学部を卒業しましたが、実は会社に入ってからはずっと技術の仕事をしていました。大学で学んだ事は将来何らかの形で活用されるものですが、すぐに企業で役立つケースばかりではありません。それより、企業で新たに学ぶ事が非常に重要です。どこに身を置くにしても、自分がわくわくするような分野で勉強を深めていく姿勢が大事かなと考えています。

植木 冒頭でもご紹介しましたように、お二人は企業人として自社の経営を安定・発展させてこられた上で、文化への貢献と産業の振興によって、人々の幸福に貢献されてきました。他者に奉仕するという姿勢が本当に鮮明でいらっしゃいます。新島襄の教育理念を端的に表した言葉に「彼等は世から取らんとす、我等は世に与えんと欲す」というものがあります。お二人が為してこられたのは、まさに「世に与える」ことですね。新島の教えを体現する卒業生がいらっしゃることを、おこがましいですが私もとても誇りに思います。最後に、同志社大学で学ぶ学生たちへのメッセージをお願いいたします。

村田 自分がわくわくできる事を見つけて、それを集中的に学ぶ、あるいはやり切っていただきたいです。先ほどのビジョン2025みたいなものが私の学生時代にあったら、あんな講義に出てみたいと思ったことでしょう。大学から学生さんに具体的な情報をもっと発信していただき、学生さんもそれらを参考に、自分がわくわくできる部分を見つけていただければと思います。

廣江 今は先の予測が非常にしにくい、不確定な時代です。大学では自分の興味があることを見つけて取り組む中で、基本的な人間のキャラクター、振る舞い、勉強のメソッドなど、定規みたいなものを身につけてほしいです。その中で少しずつ成長できると思います。

植木 大学としても、学生さんがわくわくするものに出会えるような環境や機会を提供し、応援していきます。本日はお忙しい中、本当にありがとうございました。

YouTubeにて鼎談の様子を公開中