RLP ReportResidential Learning Program (RLP) 潜入レポート Vol.2

〜 テーマ:LGBTQ とアート 〜

今回実施されたRLPのテーマは「LGBTQとアート」。
多様性を受け入れる寛容さが叫ばれる
現代社会において、LGBTQについて知り、
その視座から物事を見ることは重要です。
人種、性別、文化等、多様な違いや背景を持つ学生が
共に生活する国際混住寮・継志寮は、
そのような視点について学ぶ絶好の環境です。
学生たちは講演とディスカッションを通じて
アートと社会の繋がりを知り、
また作品を通して自身のLGBTQに対する
捉え方について考えを深めました。

プログラムスタート

講師を務めるのは同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科准教授の菅野優香氏です。映画や現代アートにおけるジェンダーやセクシュアリティ、人種問題について研究されています。外国人学生も多数参加した今回のプログラムは、日本語と英語の両方で進行。講師が学生に問いかけ、学生からレスポンスが返ってくる場面も多く見られるインタラクティブな形で展開されました。

前 半

アートと社会のつながりを知る

プログラムは「みなさんにとってアートとはどんな存在ですか?」という問いかけから始まりました。参加した学生からは、アートは高尚で近寄りがたく難しい印象で現実社会とは関係ないもののように感じる、という意見が聞かれました。しかし実は、アートは社会ととても密接な結びつきを持つ存在だと菅野氏は語ります。その例としてまず名前が挙がったのは、1985年に結成された覆面のアート集団、ゲリラガールズ。彼女たちは、ルッキズムに晒された女性アーティストたちが求められる美や優しさというイメージとは対極にある勇ましいゴリラのお面を被って匿名で活動し、アート界の性差別、人種差別、検閲を暴くことに取り組んだグループです。

 アートの既成概念を打ち破る、挑戦的なメッセージ性

有名なのは、アート界で活躍する女性は少数であるのに対して美術館に所蔵されているヌード作品のほとんどは女性であることを風刺した作品。皮肉たっぷりに「メトロポリタン美術館に入るためには、女性は裸にならないといけないの?」と、ゴリラのお面をつけた裸の女性が横たわるビジュアルと共に表現したものです。他にも彼女たちの制作物についての紹介があり、その意図について菅野氏が問いかけると、熱心に答える学生の姿が見られました。ゲリラガールズの表現方法は、これまで唯一無二の高尚な存在とされてきたアートに対して、とても挑戦的で強いメッセージ性があったこと。また作品をコピー可能にすることでオリジナリティやオーラを否定する方法を取ったこともアート界にとって衝撃だったとの解説がありました。

次に菅野氏によって取り上げられたのは、エイズ・アクティビティズムによって生まれたアートです。エイズ・アクティビズムティとは、エイズが世界的に広がった1980年代から、偏見や差別によって孤立した感染者やその家族などが社会からの理解を獲得し、自らの権利を守るために展開された運動のことです。数々の活動の中から菅野氏が選んだのは、ACTUPという有名なエイズ・アクティビスト・グループで活躍したグランフュリーの「silence = death」。

限りなくシンプルなデザインの中で目を引くピンク色の三角形が印象的なこの作品。これはナチス・ドイツがホロコースト強制収容所で男性同性愛者につけたマークを引用しているのではないかとの学生の見解を受け、菅野氏が解説を展開。学生が指摘した通り、ナチス・ドイツが使用していたマークを逆さまにして再流用することで、グランフュリーは自分たちのエイズアクティビズムのシンボルマークにしたのです。その意図は、エイズに対して何も対策されないまま死んでしまった同性愛者たちへの連帯を示す、さらに、何もしない行政に対しての抗議を表す、というもの。また、シンプルながらストレートな「沈黙=死」というコピーは、「もう黙ったまま死んだりしない」というメッセージが強く伝わってくると話しました。

 アーティストの強い思いが社会を動かす

さらに数点について説明があった後、これらのエイズ・アクティビズムによるアート活動と、先に解説のあったゲリラガールスによるフェミニズムの動きに見られる大きな共通点を菅野氏は指摘します。それはどちらにも当時の社会で起こっている問題に対して、強く伝えたいメッセージが起点になっているということ。アーティストの内側からあふれ出すメッセージが、わかりやすいビジュアルとキャッチーな表現で社会へ送り出されることで、見る側に問題について考える機会を与えてきたと言います。エイズ・アクティビズムの作品について知ることが、当時の移民問題やHIV蔓延による同性愛者嫌悪などの社会問題を学ぶことに繋がり、アートと社会の密接な結び付きを感じました。

後 半

LGBTQに関するアートをどう読み解くか

後半はスクリーンに映されたLGBTQに関するアート作品を見ながら、どのように解釈できるかを皆で話し合って発表するワークショップ形式で進められました。アメリカのフェリックス・ゴンザレスによるインスタレーション作品から始まり、フランスのクロード・カーン、ドイツのハナ・ホック、スリランカのレオナルド・ウェンデス、アメリカのマーロウ・モス、キューバのジリア・サンチェス、スペインのカーメラ・ガルシアといった世界各地のアーティストによる写真や絵画などの様々な作品が紹介され、どのようなメッセージを読みったのか意見を出し合います。

中でも印象的だったのが、クロード・カーンによる写真作品。胸を潰したり、髪型を男性っぽくする一方で、ハート等のフェミニンな記号サインをちりばめた、固定的な性別に対するイメージを超越したジェンダーベンディングな作品でした。 菅野氏は、LGBTQに焦点を当てたクィア・アートとして近年再評価を受けているとこの作品を紹介しました。

 アートを通して感じる無意識バイアス

マーロウ・モスの作品では、無機質な形や線で構成された抽象的なデザインから男性アーティストの作品ではないかと予想する学生が多くみられましたが、実は女性アーティストによる作品であると知り、会場が驚きに包まれました。その際に、長方形や直線など一見ジェンダーやセクシュアリティとは無関係に見えるものが、自分の持っている固定概念によって無意識に何かを読み込んでしまっていること。そして、本来全く性別に関する要素を持たない情報にも、無意識のフィルターを通してジェンダー化して見ていることに気付かされました。また、それは絵画だけではなく、写真作品も同じです。撮られた時代や場所、被写体がどんな人なのかを考えるだけで全く違った読み方ができるようになるというお話は、私たちの日常の生活の中でも同じことが言えるのではないかと感じました。

最後に

今回LGBTQに関する作品を通して、私たちは思った以上にアーティストのジェンダーやセクシュアリティについて勝手な偏見を持っていることを実感しました。そのことを少しでも自分自身で意識しながら改めてアートを見ると、今までとはまた全く異なった見方ができるはずです、と菅野氏。プログラム最後の「LGBTQの表現はアートだけでなく映画や小説の分野にもあるので、そういうものを通していろいろ考えてみてください。セクシュアリティやジェンダーを考えるためのとても有効なエクササイズになると思います」という言葉は、聴講者にとって自身のLGBTQに関する固定概念を見直すための大切なアドバイスになったのではないでしょうか。アートを見る時だけではなく、自分の周りの人や物事について考える際にも大切にしたい、そんな視点を教えていただけたプログラムでした。